大会長講演:AI時代のウェルビーイング
演者:中島 秀之(札幌市立大学 学長)
日時:8月19日(金)13:00~14:45
司会:後藤 芳一(日本福祉大学 客員教授)
要旨:
深層学習の画期的な進展によりAIの実用化が進んでいる。しかしながら深層学習には限界もあり、万能というわけではない。深層学習は過去の事例から学習するものであり、その学習能力には目を見張らせるものがあるが、同時に学習としての限界を持っている。記号処理による補完が必要である。
現在はAIの3度目の夏と言われているが、それに至るAI研究の歴史を概観し、その上でAIの能力の可能性と限界を浮き彫りにし、ウェルビーイング支援の方向性を探る。人間とAIの最大の相違点は、人間は実空間で生活しているのに対し、AIは生活体験を持たないということである。そのため、人間との価値観の共有ができない。そのようなAIを人間生活のウェルネス向上に役立てるためには多くの条件がある。そのような条件についても考察する。
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略歴:
1983年東京大学大学院情報工学専門課程修了(工学博士)。同年、電子技術総合研究所入所。
2001年産総研サイバーアシスト研究センター長。
2004年公立はこだて未来大学学長。
2016年東京大学先端人工知能学教育寄付講座特任教授、
2018年より現職。
認知科学会元会長、情報処理学会元副会長・元編集長。サービス学会編集長。情報処理学会・人工知能学会・認知科学会各フェロー。
主要編著書:
AI白書2022(角川アスキー)
DX白書(IPA)
計算論的思考ってなに?(公立はこだて未来大学出版会)
スマートモビリティ革命(公立はこだて未来大学出版会)
人工知能ーその到達点と未来(小学館)
人工知能革命の真実ーシンギュラリティの世界 (WAC)
知能の謎(公立はこだて未来大学出版会)
Handbook of Ambient Intelligence and Smart Environments (Springer)
知能の謎(講談社ブルーバックス)
AI事典(共立出版)
思考(岩波講座認知科学8)
Prolog(産業図書)
特別講演:動物たちと人間たちの共生-動物園にみるウェルビーイング
演者:小菅 正夫(札幌市環境局 参与、北海道大学 客員教授、旭川市旭山動物園 元園長)
日時:8月20日(土)13:15~14:45
司会:中島 秀之(札幌市立大学 学長)
要旨:
人類は、その誕生から700万年の間、自然の中で多くの生きものと共生してきた。ところがつい最近、100年ほど前から人類の社会活動によって絶滅する生きもの数が加速度的に増え始めた。このまま動物と共に生きていく手を人類が講じなければ、そう遠くないうちに我々の見知っている動物の多くが姿を消してしまうだろう。その手の一つが動物園による希少種の保全活動である。
動物園は、野生動物を飼育する目的の一つとしてそのことを掲げ、多くの希少種の繁殖研究で実績を上げてきた。しかしながら動物園の評価は、入園者数と飼育動物数、そして繁殖種数だけで評価され、動物の幸福(Well being)に配慮されては来なかった。でも近年は、動物が幸せに暮らしていることが重要視されるようになってきた。つまり、飼育されている動物は、各々生活スタイルを尊重され、その固有の活動と、高い生活の質(QOL)が保証されなければならないのだ。
札幌市動物園条例では、動物園の目的を生物多様性の保全として、飼育される動物の良好な動物福祉が維持されねばならないと謳っている。
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略歴:
1948年 | 札幌市生まれ | |
1973年 | 3月 | 北海道大学獣医学部獣医学科卒業 |
4月 | 旭川市旭山動物園 獣医師 | |
1986年 | 4月 | 旭川市旭山動物園 飼育係長 |
1991年 | 4月 | 旭川市旭山動物園 副園長 |
1995年 | 4月 | 旭川市旭山動物園 園長 |
2009年 | 4月 | 旭川市旭山動物園 名誉園長 |
2010年 | 3月 | 旭川市 退職 |
7月 | 中央環境審議会臨時委員~2021年 | |
8月 | 北海道大学客員教授 | |
2015年 | 10月 | 札幌市環境局参与(円山動物園担当) |
シンポジウム:ウェルビーイングを目指す看護学と工学の連携-工学に期待すること
演者:1.スーディ神崎 和代(医療創生大学 国際看護学部 教授/札幌市立大学 名誉教授)
2.加藤 依子(札幌市立大学 看護学部 准教授)
指定発言者:諏訪 基(国立障害者リハビリテーションセンター研究所 顧問)
田中 孝之(北海道大学 教授)
日時:8月21日(日)13:00~14:30
司会:大野 ゆう子(大阪大学 名誉教授)
趣旨:
近代看護教育の母とも呼ばれるナイチンゲールの時代から、150年の時を経て、看護学は人々の健康を維持・向上するためになくてはならない存在となっている。一方、工学の歴史を紐解くと、明治政府の富国強兵策の一環として世界初の工学部が東京帝国大学に設置されたのは1912年のことであり、100年ちょっとの間に、こちらも今や人々の生活になくてはならない存在となっている。どちらも戦争というキーワードが見え隠れする点と、社会に対する実用的な課題解決策の提供を目指す点が共通している。本シンポジウムでは、ウェルビーイングというキーワードを起点として、人を対象とする看護学と、技術を対象とする工学とをつなぐことで、より質の高い幸せな生活の実現に向けた気づきと、次に踏み出す一歩について、情報を共有できればと考えている。シンポジウムの構成は、看護学の立場から技術の活用の現状と課題、今後工学に期待することについて講演をいただく。後半はそれを受けて、工学系の指定発言者から技術の現状や、前半で示された期待の実現に向けたお話しを頂くとともに、意見交換を行う。AI時代のウェルビーイングに、看護学と工学の連携はどう貢献することができるのか?わくわくする企画にしたいと考えている。
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S1-1 異分野連携研究で日々の暮らしを支援:在宅看護・デザイン・企業連携事例
演者:スーディ神崎和代(医療創生大学国際看護学部 教授/札幌市立大学 名誉教授)
要旨:10余年、ICTを活用して広域積雪地域の人たちの暮らしを支援する共同研究を重ねてきた。可能な限り、そして、その人が望むのであれば住み慣れた地域・在宅で生活をしながら療養をする考え方、つまり、国策でもある地域包括支援という考え方を基盤に、共同開発(在宅看護・デザイン・工学・企業連携)をした自己健康管理アプリの検証を2020年度に道民の協力を得て実施した。この事例を紹介する中で異分野連携、特にデザイン・工学との連携の重要性と異分野が連携して新たなモノを創出する際のポイントを共有したいと考えている。
S1-2 Food Allergyをもつ幼児の親に対する情報通信技術を活用した支援
演者:加藤依子(札幌市立大学看護学部 准教授)
要旨:Food Allergy(以下FA)は、幼児期に多く、アレルギー症状が重症化すると生命に危険が及ぶ疾患である。毎日の体調管理において、アレルゲンを回避するための食品選択はもとより、症状の出現時には迅速な判断と対応が求められ、親の心身の負担は非常に大きい。
Mobile Health Applicationの開発は、情報通信技術(以下ICT)において最も急速に成長している分野である。しかし、FAに対するICT活用は未着手である。今回は、FAをもつ幼児の親に対するICTを活用した支援について私の取組みを紹介する。工学との連携に向けて、活発な討論を期待する。
3学会合同企画シンポジウム:コロナ禍・ポストコロナの支援機器関連領域-情報共有と未来-
演者:1.麸澤 孝(頸髄損傷当事者)
2.大野 悦子
((医)和幸会 介護老人保健施設パークヒルズ田原苑 施設長)
3.苗村 潔(東京工科大学 医療保健学部 臨床工学科 教授)
4.安藤 健(パナソニック ホールディングス株式会社 ロボティクス推進室 室長)
日時:8月20日(土)15:00~16:30
司会:内藤尚(金沢大学)、川澄正史(東京電機大学)
趣旨:
COVID-19パンデミックは、社会の様々な状況を一変し、人と人の関係や、人と物の関連性、社会のあり方など、多くの事柄についてその根本を見直す機会を提供したとも考えられる。高齢者や障害者を取り巻く状況も大きな影響を受け、今もなお、多くの課題が山積している。本シンポジウムでは、このような中で、支援機器を取り巻く領域で起こった出来事や、それにより発生する様々な問題点、それらに対応するための取り組みや工夫を共有し、それらを経験した我々がポストコロナの支援機器関連の研究や実践にどのように活かすことができるかを考えることを趣旨とする。
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S2-1 コロナ禍で再確認した支援機器と介護者の大切さ
演者:麸澤 孝(頸髄損傷当事者)
要旨:福祉サービスを利用しての地域生活も25年が過ぎた。その中で震災など生活が危ぶまれることもあったが、このコロナ禍が最大の危機であった。介護者とのお互いの感染予防はもちろん、非常事態宣言で介護者が訪問できない、外出できない、また介護者によりコロナへの考え方の違いも大きなストレスとなった。またひとりの時間も増えそのバックアップとして支援機器を最大限に利活用し生活を続けられたことも大きい。シンポジウムではコロナ禍での当事者の苦難、安心をもたらした支援機器。無くてはならないサポートする介護者。それにより見えてくる危機管理や支援機器の更なる活用を提案する。
S2-2 COVID-19パンデミックで再認識させられた介護現場における業務改善の必要性
演者:大野悦子((医)和幸会 介護老人保健施設パークヒルズ田原苑 施設長)
要旨:COVID-19パンデミック下の介護施設では、従来からのスタッフ不足のところに、感染対応により業務が増加、さらに、感染者/濃厚接触者として相次いでスタッフが出勤できず、現場のストレスと疲弊は多大で、サービスを維持できず、介護崩壊に陥った施設も出た。介護現場における業務改善は多くは個々の施設努力に帰せられてきたが、今、介護現場は、業務の合理化・業務負担の軽減が介護業界全体の喫緊の課題であることを再認識し、効率的な福祉用具/機器の開発・導入のスピードアップを切望している。
S2-3 在宅医療用機器の現状と課題
演者:苗村 潔(東京工科大学医療保健学部臨床工学科 教授)
要旨:在宅医療では、医師、看護師、臨床工学技士が頻回に患者に関わることが難しく、専用機器へ期待と要望は大きい。本講演では、1)呼吸を補助する人工呼吸器と酸素濃縮器が、COPDなどの潜在的な患者が多く、コロナ禍もあいまって、今後極めて大事であること、2)痰吸引が患者に苦痛であること、3)在宅血液透析における穿刺補助技術が必要であることについて、技術の現状と今後の展望について述べる。
S2-4 コロナ禍で加速したロボティクス活用
演者:安藤 健(パナソニック ホールディングス株式会社 ロボティクス推進室 室長)
要旨:新型コロナウイルスは、多くの人の暮らし方、働き方を激変させた。そして、コロナ禍において時間や場所を超えるための技術の社会実装も進んだ。一度社会に浸透し始めた技術は、ポストコロナにおいても新しい体験のために活用されるであろう。これは、健常者のためだけのものではなく、様々な支援が必要な人にとっても、有用になる可能性を十分に秘めている。本講演では、ひとやモノの移動、そして、人と人のつながりなどを事例にその可能性を探ってみたい。
生活支援工学に資する研究・実践に対する研究助成の成果報告会
演者:1.勝山 あづさ(神戸大学大学院保健学研究科 博士後期課程 大学院生/大阪医科薬科大学 看護学部 助教)
2.安藤 菜摘子(大阪大学医学系研究科保健学専攻 博士後期課程)
3.井上 淳(東京電機大学工学研究科 准教授)
4.二瓶 美里(東京大学大学院新領域創成科学研究科 准教授)
日時:8月21日(日)10:15~11:45
司会:吉田 俊之((株)エヌ・ティ・ティ・データ経営研究所 アソシエイト・パートナー)
趣旨:
未曾有の少子高齢化がますます進展する我が国において、テクノロジーを活用した新たな社会像の提示やその実現に向けた課題の整理、あるいは、高齢者等の暮らしのあり方に関する新しい示唆が待たれている。日本生活支援工学会では、生活支援工学の観点から新たな展開を開拓する諸活動を推進する一環として、生活支援工学に資する研究や実践に対する助成事業に取り組んでいる。このセッションは、その成果報告を広く共有することを主たる趣旨とする。また、豊かな発想と幅広い見地から自由に意見交換し、生活支援工学の新たな開拓に向けて未来志向で開けた議論の場としたい。
詳細
S3-1 連携研究・産学連携工程に関連する課題調査
演者:勝山あづさ(神戸大学大学院保健学研究科博士後期課程 大学院生 大阪医科薬科大学看護学部 助教)
要旨:本研究では、連携研究・産学連携にて異分野・異職種が協働する際の計画遂行や成果公表における障壁を明らかにすることを目的に、研究者、専門職者、企業所属者を対象とした半構造化面接を実施し、質的内容分析を行った。その結果、関係者間で時間軸の認識が不一致であることや企業ドメインごとの知的財産権の割り振りが不明確であること、データの機密性から論文公表が困難であること、継続的なコーディネーター役割が不在であること等が障壁として認識されていることが示唆された。
S3-2 多様な介護の現場で働く多職種が福祉機器開発・改良に直接提言できるプラットフォーム構築と効果指標の検討
演者:安藤菜摘子(大阪大学医学系研究科保健学専攻 博士後期課程)
要旨:福祉機器の開発・改良には、企業側のシーズと医療・介護現場のニーズが直結し、迅速に実現されることが望ましい。しかし、現場側から討議の機会や伝達手段を見出す事が難しく、多様なニーズが開発側に伝えられぬまま埋もれてしまう事も多い。そこで私たちは、多施設・多職種の様々な視点からの意見を、直接企業側と丁寧に討議できるプラットフォームの構築を目指し、活動を進めている。多様なニーズを満たす機器開発が円滑・迅速に行われることで、広く生活支援に貢献したいと考えている。
S3-3 「ニーズ・アンド・アイデア・フォーラム」を通じた生活支援工学分野人材の育成
演者:井上淳(東京電機大学工学研究科 准教授)
要旨:「ニーズ・アンド・アイデア・フォーラム」とは、医療福祉分野、デザイン分野、工学分野の学生が混成チームを組み、障害当事者からニーズを聞き取ってものづくりを行う取り組みである。この取り組みを通じ、工学技術が分かる医療福祉人材、デザインまで考えられる工学人材、臨床現場のニーズが理解できるデザイン人材などを育成することを目指して活動を行ってきた。その取り組みについて紹介するとともに、本発表では特に、2020年度以降完全オンラインでの取り組みで得られた、オンライン協働によるものづくりの特徴と課題についても述べる。
S3-4 高齢者を対象とした技術の導入や受容をめぐる倫理的、法的、社会的課題に関する議論をするためのコミュニケーションデザイン
演者:二瓶美里(東京大学大学院新領域創成科学研究科 准教授)
要旨:高齢者の暮らしは、心身機能や生活様式に加え、生きがいや意欲など人によりさまざまである。それを受けて、高齢者の暮らしを支えるテクノロジーには、多様性の理解と深い洞察、技術受容などを総合的に検討していく必要がある。本取り組みでは、技術の導入や受容をめぐる倫理・法的・社会的課題に関する課題の整理と議論を行い、学術的な議論ができる場を作ることを目的とする。本報告では、学際的なメンバーでの研究経過と、技術とともに生きる私たちの将来像に関する総合的な議論について報告する。
行政情報共有セッション:経済産業省における福祉・介護ロボット機器関連施策の紹介
演者:岡崎 健一
(経済産業省商務・サービスグループ ヘルスケア産業課 医療・福祉機器産業室、室長補佐)
日時:8月20日(土)11:45~12:15
要旨:
高齢者人口の増加に伴う介護人材の不足等、様々な社会課題を解決するために経済産業省が取り組んできた福祉用具やロボット介護機器開発についてご紹介するとともに、直近の開発支援の状況や今後目指すべき開発の方向性についてもご紹介いたします。